インダストリー4.0は、新たな課題を生じる場合があるものの、変化によってもたらされる著しい効果の方がはるかに重要です。未来の工場を創造する革新的な企業は、従業員の生産性とROIの向上に注目しているだけでなく、技術が成長の契機になることも認識しています。
製造を近代化して成長を促進するためには、あらゆる規模の産業が資源の課題を克服し、材料管理の改善や製造プロセスの最新化を通じて、競争上の優位性を引き上げる必要があります。プロセスや機械を改善していく必要があるのです。業界は、サイバーセキュリティを利用して、導入する製品の新しいプラットフォームを保護する必要があります。雇用者は、進歩的なデジタルトレーニングの取り組みを通じて、従業員を教育する必要があります。昨今の接続された世界では、データがこれらの目標を達成するカギとなります。
稼働時間と生産性を最適化し、メンテナンスコストを削減することで、未来の工場のパフォーマンスが決まります。データの収集、保存、可視化、分析により、電力使用量、出力、および稼働率の透明性が向上します。 業界はこのような方法で、製造データを使用してメンテナンスを予測し、コストを削減して、パフォーマンス向上のためのプロセスの自動化を図ります。メーカーが将来を見据えるうえで、データから正しい情報を抽出することは、業務を改善し長期的価値を創出するために重要です。接続性は、機械、センサー、スマート製品、パートナーアプリケーション、その他のデータソースと接続する未来の工場の原動力となります。デジタル接続されたエコシステムは、これまで実現不可能だった方法でのデータの集約と利用を可能にします。インダストリー4.0のイノベーションを推進するのは、このエコシステムなのです。
インダストリー4.0に端を発するデジタル化は、製品の計画、製造、使用、メンテナンスの方法を再定義します。工場の業務のデジタル化の進みが速いほど、ROIを早期に実現できます。インダストリー4.0への投資を行っているメーカーは、デジタル化を行っていない競合他社よりも、4年間で20.4%多くの収益を得ています。1
より優れた材料管理による持続可能性の推進
積層造形および軽量化技術により、OEMは環境に前向きな影響を与え、従来の製造方式よりも迅速に、新しい材料、設計、およびプロセスのイノベーションを組み合わせる新しい機会を創出できるようになります。積層造形により、エンジニアは新しい設計の試作品を迅速かつコスト効率よく作成できます。また、新しい「製造から設計へ反映」という実例さえももたらされています。機械加工や成形などの従来の製造方法ではなく、新しい積層技術には、金属および非金属の両方の用途に対応した3D印刷などが含まれています。これらの技術により、OEMは複雑なコンポーネントや設備に対する需要の高まりに対応しながら、市場投入までの期間を短縮し、持続可能な製造手法を推進することができます。
当社では、ポリマー材料、複合材、構造材の最先端ソリューションを追求し、製品の効率性、耐久性、リサイクル性を向上させています。飛躍的に増加している接続されたデバイスやセンサー、そしてそれらが生み出すデータやインサイトを利用して、当社は、リソースを効率的に使用または節約し、エネルギーを確実に利用できるようにして、より安全な生活環境と作業環境を実現しています。
当社の積層造形プロセスでは、最終製品に必要な材料のみを使用することで、廃棄物やスクラップを削減できます。当社のチームは、エネルギー、原材料、天然資源の使用を最適化しており、自らが排出する廃棄物や二酸化炭素の量を積極的に削減しています。各3Dレイヤーが積層されると、リアルタイムのデータ分析によって品質を評価し、保証します。基準に満たない品質を検出した場合でも、継続的なデータフローがあるおかげで、入力を変更したり印刷速度を遅くしたりして、より良い製品を保証しながら、廃棄物や材料のコストを削減することができます。
私たちは、エンジニアが新しい技術を直接利用し、制限なく自主的に実験できるようにすることで、最先端の思考を引き出そうとしています。広範な調査を通じて、当社は、積層造形が与える環境的効果の理解を深めています。サウスフィールド(米国ミシガン州)とプネ(インド)にあるイートンのセンターオブエクセレンスでは、複雑な高性能コンポーネント、ツール、設備に対する需要の高まりに対応しながら、市場投入までの期間を短縮し、持続可能な製造を推進することで、 2030年の持続可能性目標を達成する能力を高めています。
計画から導入まで、サイバーセキュリティを最大限に高める
政府による適切なサイバーセキュリティ対策の基準制定が遅いため、メーカーは、リスクを特定して排除する必要があります。そのため、現在は多くのOEMが、自社製品がOEMのガイドラインに準拠している、またはそれを超えていることを証明できるサプライヤーと協力しています。
イートンでは、サイバーセキュリティの確保は製品開発の工程から始まっています。ここで、接続されたIoT製品が「セキュア・バイ・デザイン」(設計の段階で安全対策が行われている)であり、組み込みロジックを備えているよう徹底されます。イートンのセキュアな開発ライフサイクルにおいては、製品開発のあらゆる段階でセキュリティが組み込まれ、従業員、プロセス、および技術に厳格なプロトコルが適用されるようになっています。当社のエンジニアはトレーニング、脅威モデリング、要件分析、検証を通じて、構想段階から設置、そして継続的サポートに至るまでに用いられるサイバーセーフデバイスを構築しています。
当社は、新しいシステムと従来のシステムの両方において専門知識を活用しています。他のプロバイダーは、センサーやクラウド製品のみを提供する一度限りのソリューションを構築していますが、イートンはセンサーからコントローラ、そしてゲートウェイからクラウドまで、一貫したソリューションを提供しています。そのため、当社は、システムやデータのセキュリティを損なうことなく、新しい機械を使用したり、従来のシステムに最新技術を追加したりすることができます。ビジネスプロセスを改善するには、データの利用と透過性が欠かせません。当社は、すべての機械からデータを収集し、クラウドサービスを通じてこれを共有することで、お客様が1つのダッシュボード上でより多くの情報を収集し、プロセスパラメータをわかりやすく確認できるようにしています。
当社は、技術標準、ツール、プロセスを網羅するエンドツーエンドプロトコルを採用して、インダストリー4.0の成功に不可欠なデータを保護しています。お客様は、当社の専門ラボと「セキュア・バイ・デザイン」なアプローチを利用することで、業界最高のサイバーセキュリティ要件を満たすデバイスを設置し、それらを重要なシステムの一部とすることができます。メーカーや企業は、スマートで安全なIIoTデバイスとサービスを安心して導入できます。
教育やトレーニングを通じた生産性の向上
コロナウイルスの流行により、信頼できるリモートラーニングの必要性が高まっています。世界中の企業は依然として、ウイルス感染の急拡大に応じて従業員の配置を調整していますが、従業員のトレーニングを止めるわけにはいきません。新しい「遠隔経済」では、スキルの再構築やスキルアップに対応した学習アプローチが非常に重要になっています。
イートンは、擬似的なデジタルコンテンツを実際の作業環境と重ね合わせて使用し、合成されたオブジェクトを生み出すAR(拡張現実)を、企業のトレーニング方法、増産方法、そして従業員の学習方法を再構築する技術であると捉えています。組み込み動画や段階的なホログラフィックオーバーレイなどの機能により、電子機器からの指示に従った没入型トレーニングが可能になります。これにより、トレーニングの時間枠が大幅に短縮され、トレーナーや受講者の健康リスクが軽減されます。
デジタルツイン
ARでは、開発サイクルにおけるデジタルツインの使用が勧められています。デジタルツインを通じて生成される、物理資産の仮想レプリカであるデータは、多額の設備投資を行う前に新製品を周知させるうえで役立ちます。
デジタルツインモデリングでは、製品および製品設計の改善に使用されるARツールとプロセスを活用できます。当社は、製品の不具合やプロセスの不具合など、時間や手順におけるギャップを特定し、直ちに改善を行っています。データを実用的なインサイトに変換することで、総所有コストを削減し、効率を高め、稼働時間を最大限に増やすことが可能になります。
より臨場感あふれるオンデマンドのARトレーニングにより、受講者は、70%の長期定着率向上と同時に、2桁にのぼる効率性の改善を経験しています。5
リモートアシスタンス
リモートアシスタンスは、世界中のどこからでも対話できる没入型のリアルタイムなコラボレーションスペースを実現します。当社の車両グループでは、マイクロソフトのHoloLens 2とリモートアシストを使用して、世界中の従業員、顧客、そしてサプライヤーをこの空間に集めることができます。このプログラムでは、HoloLens 2を装着した1人のユーザーがおり、ハンズフリーで作業したり、Microsoft Teamsを介して接続されている他のユーザーに、自身の視点から見た情景を提供したりできるようになっています。また、他のユーザーは、ドキュメントや指示を共有したり、HoloLensユーザーの視野内に注釈を浮かぶように表示させて対話したりすることもできます。
プログラムの成果は驚くべきものです。問題が初めて正しく解決されたことで、ARを使えば、従業員を実際に集める必要がなくなり、出張費は大幅に減少し、出張による生産性の低下は解消され、二酸化炭素排出量は削減されることがわかりました。これにより、対面でのやり取りの利点が失われることもありません。
トレーニングと作業指示
デジタルトレーニングは、ほぼすべてのプロセスや作業に適しています。新人社員研修、製品の組み立て、メンテナンス、安全点検、品質保証など、当社は3次元モデルと動画を組み込んで、従業員が対面トレーニングと同じくらい迅速に業務を開始できるよう図っています。
最近では、カナダのオンタリオ州にあるロードセンター施設でARを使用しています。この工場では、ペースの速いマルチステーションラインで、30を超えるユニークなSKUを製造しています。ラインには離職する人がいるため、熟練作業者には、新入社員を教育する義務が課せられています。そのため、組み立てラインを離れることになり、生産性に悪影響を及ぼします。当社のARプログラムの直感的なグラフィックオーバーレイや詳細な指示により、学習時間は短縮され、英語とフランス語の言語の壁は取り払われるため、熟練作業者はすぐに作業に戻ることができます。対面式のトレーニングも不要なため、技能習得のスピードが劇的に速くなり、知識保持率が向上し、組み立てラインでのエラーも非常に少なくなっています。
従業員は企業にとって最も重要な投資です。ARのおかげで、メーカーは新入社員研修や従業員トレーニングを迅速かつ安全に行い、いち早く現場に就かせることができます。ラインでの問題もほぼありません。これにより、生産性が向上し、人材への資本投資も早く回収できます。
イートンの未来の工場の旅は始まったばかりです。当社は、いくつかの出発点に注意しながら、インタストリー4.0エコシステムの技術を引き続き活用して、総合設備効率(OEE)、デジタル作業指示、予測メンテナンス、トレーサビリティ、コボット、無人搬送車など、より多くの可能性を探求しています。
競争力を維持するためには、どのような規模のメーカーもインダストリー4.0による改革に没頭し、インサイトにつながるデータを活用してニーズを予測し、効率性を高め、よりスマートな意思決定を行う必要があります。状況によっては、道を進むにつれ、既存のシステムの大規模な交換が必要になることがあります。インフラや接続機能の軽微なアップグレードで済む場合もあるでしょう。メーカーのニーズが何であれ、今こそ、豊富なデジタルデータを活用してより大きなアイデアを生み出し、それらのアイデアを実用的で現実的な製品に変えて、長期的な成長や価値をもたらすチャンスなのです。
インダストリー4.0担当のVPであるグレイグ・サットンと、IT製品業務/デジタルデザイン/製造担当VPであるトッド・エールズが、スマートファクトリーの進化について説明し、デジタル技術や相互接続されたデータ分析を活用することでメーカーにもたらされるメリットをお話しします。
参照
1 IDC(2019年9月)、The Importance of an Industrial Focus for Digital Transformation.
2 Betti, Francisco(2020年1月)、How manufacturing can thrive in a digital world and lead a sustainable revolution.
3 Swivelsecure. Industry 4.0 …and the cybersecurity risks to the future of manufacturing.
4 Manufacturing Automation Management Talk. Shaping Skills And Culture For The Factory Of The Future.
5 Kroc, Natalie(2017年9月)、Augmented Reality Comes to the Workplace.